安全委員会方式

安全委員会方式とは

九州大学名誉教授 田嶌 誠一

子ども間暴力(児童間暴力)の深刻さ

児童養護施設では、近年、入所児童の心のケアの必要性が認められ、心理職が配置されるようになってきた。私も最初は数年間にわたって、いくつかの児童養護施設で入所児童の成長・発達のための関わりをあれこれ実践したが、それなりの成果はあったものの、どれも今ひとつの観があった。そして、やっとわかってきたのは、入所児童たちの間で非常にしばしば予想をはるかに超えた深刻な暴力・性暴力があるということ、すなわち「成長の基盤としての安心・安全な生活」が送れていないということである。したがって、この問題への取り組みなしには子どもたちへの成長・発達への援助はありえないと言えよう。
いずれも過酷な状況を潜って児童養護施設へ保護され、本来最も手厚く保護され養育されるべきその子どもたちが、またさらに深刻な暴力にさらされながら日々の生活を送らなければならないことには、やりきれない思いである。近年では被虐待児の入所も多くなり、子ども虐待(児童虐待)から保護された子どもたちの受け皿としての役割が大きくなっている。したがって、この問題への取り組みなしには、虐待からの保護さえ終わっていないのであり、子ども虐待への対策は極めて不十分なものになってしまうと言えよう。(田嶌,2008b,2009)

子ども間暴力(児童間暴力)(含性暴力)は連鎖する:被害者が加害者になっていく

そのような暴力(含性暴力)は特定の地域や特に荒れた児童福祉施設での話ではなく、かなりの数の児童福祉施設で全国的に起こっているものと思われるということを強調しておきたい。さらに痛ましいことには殴る蹴るといった暴力だけでなく、同性間および異性間での性暴力もあるということである。また被害児が長じて力をつけ加害児となっていく。すなわち子ども間で暴力の連鎖が見られるのである。(田嶌,2005a,c,2010)

施設内暴力の実態とその適切な理解

むろん、子ども間暴力(児童間暴力)だけが問題なのではない。「施設内虐待」や「施設内暴力」といえば、施設職員による入所者への暴力(職員暴力)がもっぱら注目を浴びてきた。しかし、児童福祉施設には「2レベル三種の暴力(含性暴力)」があるのである。2レベルとは潜在的暴力と顕在的暴力であり、三種の暴力とは①職員から子どもへの暴力(職員暴力)、②子ども間暴力(児童間暴力)、③子どもから職員への暴力(対職員暴力)、の3つである(表1)。これらの施設内暴力(含性暴力)は、いずれも深刻であり、またいずれも子どもたちの安心・安全を脅かすものである。(田嶌,2005c,2007,2010)また、私は、ここで施設内暴力・虐待だけでなく、一時保護所や里親による暴力・虐待を含む語として「社会的養護内暴力・虐待」という語を提案したい。

包括的対応が必要

ここで重要なことは、それらはしばしば相互に関連しており、いずれか1つの暴力だけを取り扱うのでは他の暴力が激化することがあるので注意を要するということである。たとえば、職員暴力だけを問題にすれば、かえって子ども間暴力(児童間暴力)がひどくなる可能性が高い。したがって、従来職員暴力だけがもっぱら注目され問題とされてきたことには大きな問題がある。それらのどの暴力にも対応すること、すなわち包括的対応が必要である(田嶌,2007,2008a,b,2009)。

表1. 2レベル三種の暴力(田嶌,2005c,2007)

2レベル三種の暴力(含.性暴力)
1)2レベルの暴力
①顕在的暴力 ②潜在的暴力
2)三種の暴力
①職員から子どもへの暴力(職員暴力)
②子ども間暴力(児童間暴力)
③子どもから職員への暴力(対職員暴力)

かくも長き放置(ネグレクト)

私はこの問題に他の専門家よりもわずかに早く気づいて取り組みを開始してきたにすぎない。そうした立場の者が、こういう言い方をするのはどうかとも思うが、しかし自戒もこめてあえて述べておきたい。これは、「かくも長き放置(ネグレクト)」である。専門家によるネグレクト、大人によるネグレクト、そして社会によるネグレクトである。(田嶌,2008a,b,2009)長年暴力にさらされてきた子どもたちの苦しみを思うと、こう言わざるをえない。施設内虐待はどのような優れた施設でも起こりうるという前提のもとで、施設をあげて防止に努力すべきある。

現在の状況への反応としての問題行動

ここで、関係者にぜひとも考慮していただきたい極めて重要な可能性を指摘しておきたい。
現在、児童福祉施設の入所児童のさまざまな問題行動や気になる兆候が注目されている。それらの問題行動や気になる兆候は、過去の虐待や過酷な養育環境への反応として、反応性愛着障害あるいは発達障害の兆候としてもっぱら理解されてきたように思われる。
しかし、発見が困難な子ども間暴力(児童間暴力)が潜在的にかなり広く存在するかもしれないことを顧みるとき、それらの問題行動は、子ども間暴力(児童間暴力)や職員からの暴力等のその子が現在置かれている状況への反応である可能性がある。控え目に見ても、過去の虐待や過酷な養育環境への反応だけでなく、現在の状況への反応が大いに含まれている可能性がある。また、子どもの問題行動や気になる兆候がなかなか改善されない場合、それらの問題行動を維持・持続させてしまう要因が現在の状況にあるという可能性を疑ってみるべきである。そして、その子が現在なんらかの暴力(含.性暴力)にさらされている可能性をまず疑うべきである。児童福祉施設に関わる者は、まず最優先にその可能性を考えてほしいと私は切に願っている。(田嶌,2005a,2008a,b)

入所以前に受けた虐待が必ずしも主たる要因ではない

誤解されやすいことだが、必ずしも被虐待児だからそのような暴力が起こるのではない。集団内の暴力(含性暴力) は児童福祉施設に限ったことではなく、大人であれ子どもであれ、ある程度の数の人間が閉鎖性の高い空間でストレスに満ちた生活を共にする時、極めて起こりやすい性質のものであると言えよう。実際、学校寮などでも同様のことが少なからず起こっている。したがって、入所以前に受けた虐待は促進要因のひとつではあるにせよ、少なくとも必ずしも主たる要因であるとは考えられない。(田嶌,2005a,2008a,b)

欧米と日本の違い:欧米のモデルの限界、「仕組みづくりの必要性」

ごく大まかに言えば、欧米では里親養育が主であり、施設養育が主ではないので、集団生活によって生じるこの問題の解決のモデルは欧米の児童福祉領域にはないと思われる。先述のように、施設内の三種の暴力を同時に扱うことが必要であり、そういう方式をわが国で独自に考案していく必要がある。
施設におけるすべての暴力を同時になくしていくのに有効な包括的対応システム、暴力から子どもたちを日常的に護るシステムを創っていくこと(=「仕組みづくり」)こそが必要なのである。(田嶌,2007,2008a,b,2009)

暴力をなくすには:「個と集団」という視点からのアプローチ

では、暴力をなくすにはどうすれば良いのだろうか。「心の傷」のケアさえすれば暴力を振るわなくなるという理解があるようであるが、それは甚だ疑問である。たとえば、その子だけが止めても、次に自分がやられるかもしれない中で生きているのだから、個別対応だけでは解決困難である。「個と集団」という視点からのアプローチが必要であると言えよう。(田嶌,2007,2008b,2009)

安心・安全のアセスメントが重要

まずなによりも必要なのは、「安心・安全のアセスメント」である。児童養護施設に心理士が配置され、最近では入所児童を対象にトラウマや愛着に焦点をあてた心理療法を行った事例が学会誌などで報告されるようになってきた。しかし、それらの報告のいずれもその施設でその子の安心・安全がどの程度守られているのかということについてのアセスメントについて触れたものは、筆者の知る限り、今のところない。施設の実情を考えれば、これは大変困ったことである。心理療法や心のケアにあたっては、現実の生活場面での「安心・安全のアセスメント」が重要である。心理療法、心のケア、トラウマの治療、愛着の再形成、発達援助、いずれの援助的関わりも生活場面で子どもの安心・安全が守られているかどうかのアセスメントをしっかり行ったうえで、実施すべきである。とりわけ、施設に関わる臨床心理士や精神科医にこのことを強調しておきたい。

「モニターしつつ支援する」仕組みが必要

これまで入所の子どもたちが振るう暴力は、特定の職員個人の対応や処遇の問題とされてきた。それだけで済むのであれば、現在のような深刻な暴力問題は起きにくいはずである。個人の処遇力だけではなく施設全体の処遇力を上げることが重要なのであり、暴力への対応は施設としてどう対応をするかというガイドラインと、個々の職員の対応を支援する仕組みが必要である。同時に、それは職員から子どもへの暴力もモニターする仕組みであることが必要である。すなわち、「モニターしつつ支援する」仕組みが必要なのである。この問題は、特定の地域の特定の施設の問題ではなく、全国的な問題である。したがって、ある施設だけで有効な取り組みが行われればそれだけで済むというわけにはいかない。

児相と連携して施設全体で取り組む「安全委員会方式」

施設内暴力・虐待への取り組みの要諦は(1)施設をあげて2レベル三種の暴力に取り組む、(2)それを風通しのいい形で行う、さらに(3)そのうえで、子どもたちへの成長への個別の支援を行う、ということである(表2)と私たちは考えている。
このような視点から、私たちは現在、児童相談所(児相)と連携して施設全体で取り組む「安全委員会方式」を実践し、この問題の解決に向けて全国的に活動を展開しつつある(田嶌,2005b,2007,2008a,b,2009,2011)ので、そうした仕組みづくりの一例として、ここでその概要を紹介したい。
「安全委員会」方式とは、簡単にいえば、「児童福祉施設等における施設内暴力を解決し、子どもの成長の力を引き出す方式」であり、外部に委嘱された委員と職員から選ばれた委員とで「安全委員会」というものをつくり、そこで暴力事件についての対応を行う方式である。
具体的には、①安全委員会には、児相と学校に参加してもらうこと。②定期的に聞き取り調査と会議を行い、対応を協議し実行すること。③委員長は外部委員が務める。④事件が起こったら緊急安全委員会を開催すること。⑤4つの基本的対応があること、1番目「厳重注意」、2番目「特別指導」(または「別室移動」)、3番目「一時保護(児相に要請)」、そして4番目が「退所(児相に要請)」である。⑥原則として、暴力事件と結果の概要を入所児童に周知すること。⑦暴力を抑えるだけでなく、代わる行動の学習を援助し、「成長のエネルギー」を引き出すこと、などである(表3)。この方式では、「指導の透明性」「指導の一貫性」が重要である。
なお、懲戒権は施設長にあり、措置権は児相にあることは言うまでもない。

表2. 施設内暴力・虐待へ取り組みの要諦

(1)施設をあげて2レベル三種の暴力に取り組む

(2)それを風通しのいい形で行う

(3)そのうえで、子どもたちへの成長への個別の支援を行う

表3. 安全委員会方式の基本要件

① 力関係に差がある「身体への暴力」を対象とする
② 安全委員会には、児相と学校に参加してもらう
③ 委員長は外部委員が務める
④ 定期的に聞き取り調査と委員会を開催し、対応を協議し実行する
⑤ 事件が起こったら緊急安全委員会を開催する
⑥ 4つの基本的対応
⑦ 原則として、暴力事件と結果の概要を入所児童に周知
⑧ 暴力に代わる行動の学習を援助し、「成長のエネルギーー」を引き出す
⑨措置変更や一時保護が続いた場合は、「検証会議」を開催し、対応の改善点を協議する

表4. 安全委員会活動とは

①安全委員会の審議と対応

②スタッフによる安全委員会活動
日々の指導:「叩くな、口で言う」等
緊急対応 事件対応 応援面接
ケース会議 等
→成長のエネルギーーを引き出す

強調しておきたいのは、安全委員会の審議と4つのステップだけが注目され、それだけが安全委員会活動であると思われがちであるが、実際には、それだけでなく同時にスタッフによる安全委員会活動が必須であるということである。すなわち、安全委員会活動とは、①安全委員会の審議と対応、および②スタッフによる安全委員会活動の両者を含むものであるということである(表4,田嶌,2009)。生活場面でのスタッフによる暴力への対応や指導、ケース会議等をはじめ成長のエネルギーーを引き出すための活動が同時に行われているのである。

暴力がおさまってくると

暴力がおさまってくると、小さい子や弱い子がはじけてくる。これはとりあえず良いサインであるが、要注意でもある。ここをきちんと対応していくことが重要である。

安心・安全が実現すると

安全委員会方式が軌道にのり、安心・安全が子どもたちに実感できるようになると、しばしば以下のような変化が起こる。

  1. 強い子が暴力を振るわず、言葉で言うようになる。
  2. 弱い子がはじけたり、自己主張するようになる。
  3. 特定の職員に過去の被害体験や虐待体験を語るようになる。
  4. 愛着関係や友人関係がより育まれる。
  5. 職員が安心し、元気になる。

成長の基盤としての安心・安全

施設の入所児童はしばしばさまざまな問題行動を示すが、それらの問題行動や気になる兆候は、過去の虐待や過酷な養育環境への反応として、反応性愛着障害あるいは発達障害の兆候としてもっぱら理解されてきたように思われる。事例検討会や研修会などでも、「心の傷のケア」や「愛着(アタッチメント)の形成」「発達障害の発達援助」といったことに関心が向けられ、もっぱらそうした視点から議論されているように思われる。しかし、「愛着の形成」は暴力・性暴力への対応または安心・安全からしか始まらないものである。換言すれば、「護られることへの信頼」(當眞,2016)からしか育むことができないのである。「心の傷のケア」にせよ「発達障害の発達援助」にせよ、同様である。
「安心・安全」が実現されると、自然に、それまでとは違う愛着関係が展開してくるし、またしばしば子どもたちが自発的に過去の被害体験や虐待体験を特定の職員に語るようになる。「安心・安全」が実現できてこそ、「愛着(アタッチメント)」も「トラウマ」も適切に取り扱うことが可能になるものと考えられる。「愛着」や「トラウマ」関係のどの本でも、安心・安全が重要であると述べられているものの、その安心・安全を施設で実現することがいかに大変なことか、どうやって実現したいったらよいかということが全くといっていいほど言及されていない。このことこそが、現在この領域で最も重要な課題である。(田嶌,2005a,2008a,b,2009)

全国的な取り組みの展開

私たちは、児童養護施設だけでなく社会的養育のさまざまな場で安全委員会活動を展開し、そこでは暴力が激減することは勿論のこと、それ以外にも子どもたちにさまざまな望ましい変化が起こっている。現在(2018年5月)、南は九州から北は北海道に至る児童養護施設25ヵ所、児童自立支援施設1ヵ所、児童心理治療施設1ヵ所、ファミリーホーム3ヵ所、乳児院2ヵ所、里親家庭1ヵ所の合計33ヵ所で活動を展開している。ただし、児童養護施設・児童自立支援施設・児童心理治療施設は表3の基本要件のもとに活動しているが、ファミリーホーム・乳児院・里親家庭については、児童養護施設の安全委員会方式を参考にしつつも、それとは異なる形をとっているが、いずれも表2の要諦に基づくものである点では共通したものである。
また、「全国児童福祉安全委員会連絡協議会」を設立し、2009年より毎年全国大会を開催している。

「懲戒権の濫用」等の批判

こうした活動の展開の一方で、安全委員会方式による活動が、あたかも退所という措置変更(の要請)や一時保護(の要請)を濫発しているかのような批判がある。また、そのことと関係して「懲戒権の濫用」という批判(西澤,2008,2015がある。そもそも措置権は児相にあり、懲戒権は施設長にある。原則として安全委員会には児相や学校が安全委員会に参加することになっているにもかかわらず、このような批判が出ること自体不可解である。また、4つの基本的ステップを設けていることから、「3回暴力を振るえば退所させる方式である」との批判もあるようだが、これも全くの誤りである。暴力事件については、「深刻度」、「再発可能性」、「施設全体への影響度」の3つの視点から対応を検討するのであって、何回やれば自動的に退所(の要請)などといったことは決してない。
こうした批判に対しては、静岡県の県立情短施設「吉原林間学園」が安全委員会活動実施の全施設(当時6つの県の12ヵ所の施設)にアンケート調査を行った結果が報告されている(吉原林間学園,2008)。「吉原林間学園」のご了承をいただいて資料として末尾に掲載しておくので参照されたい。そこには、現実にはこれまで安全委員会を立ち上げて以降に、退所になった児童は、2008年6月20日の時点で全12施設全体で1名のみであり、退所も一時保護も極めて少ないと述べられている。
そして、暴力事件を起こした子どもたちのほとんどが「厳重注意」の段階で改善しており、一時保護になった子も全12施設で合計しても数名に留まっている。また、暴力がおさまるだけでなく、それ以外にも望ましい変化が多数起こっているのである。
また、「子どもの暴力だけを取り上げている」(西澤,2015)との批判もある。私たちの安全委員会方式では、三種の暴力を包括的に扱っているのであり、子どもによる暴力だけを扱っているわけでは決してない。実際、活動の開始当初から、子どもへの聞き取り調査では職員からの暴力の有無も含め聞くことになっている。少数ながら、実際に職員から子どもへの暴力も発生しており、職員への厳重注意も行っている。

「知る権利」がある

言うまでもなく、退所という措置変更は現実にあることであり、安全委員会がらみで始
まったことではない。であればこそ、稀にではあれ自分たち自身に適用される可能性があるルールについて、子どもたち自身があらかじめ知らされておくことは必要なことである。また、なにも知らされないで、なんらかの深刻な事件を起こし、いきなり「退所」になることの方こそが重大な弊害であると思う。また、被害児を守り抜き、安心・安全を保障するためにも、ルールを教えておくことは必要であると考えられる。「安心・安全に暮らす権利」があるのはもちろん、退所という措置変更がありうるということを、子どもたちには「知る権利」があるはずである。(田嶌,2009)

おわりに

子どもたちが安全・安心を実感できないような脅かされた状態に置いたままにしておくことは、児童福祉に著しく反するものであり、早急になんらかの有効な対応が必要である。
安全委員会方式のようなものは、ひどく暴力が吹き荒れているごく一部の施設にのみ必要なものとの意見もある。しかし、この問題は決して一部の施設の問題ではなく、程度の差はあれほとんどの施設で起こっている問題である。したがって、暴力へ対応する仕組みは、決して一部の施設にのみ必要なものではなく、ほとんどの施設に必要であると考えている。かくも事態は深刻なのである。しかも、落ち着いた施設であれ、たったひとりの暴力的な子が新たに入所するだけで、あっというまに荒れてしまうことさえある。この問題の解決には、先に述べたように個別対応だけでは限界がある。すべての施設に子どもたちを日常的に守る仕組みづくり(=システムづくり)が必要である。それは同時に個別対応を「モニターしつつ支援する仕組み」づくりでもある。
私たちの方式に賛同しない方々も、一方的批判に終始するのではなく、この問題の深刻さと重要さに鑑みて事態改善のためのなんらかの取り組みを開始していただきたいと願っている。私たちとは違うやり方であれ、比較的落ち着いた施設だけでなく、職員がボコボコにされている施設や潜在的暴力が密かに続いてきた施設でも実績を上げ、そのやり方を広めていただきたい。また、その実績をもって私たちと議論していただきたい。その際、重要なのは、どのような方法をとるのであれ、暴力・性暴力の実態の把握の努力をし、その効果を検証(チェック・モニター)しながら実践していくということである。(田嶌,2005b,2007,2009)
児童福祉施設や児童相談所に対して、子ども間暴力(児童間暴力)や職員暴力を解決しろと外部からただ声高に要求するだけでは何の解決にもならないと、私は考えている。この問題を解決しうる有効な対応策や予防策を提示し、この問題に取り組む職員の方々を支援していくことこそが必要なのだと思う。この問題は、行政(児童家庭課)と児相と児童福祉施設の三者が同時にやる気にさえなれば、そして各種の専門家がそれを支援していけば、確実に解決できる問題だと、私は考えている。

【参考文献】
静岡県立吉原林間学園(2008)安全委員会に関するアンケート調査.平成20年度児童養護施設等における暴力防止に関する研修会第1回講演抄録.
西澤哲 2008 田嶌先生の批判に応えて 臨床心理学 8(5):706-712.
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田嶌誠一 2007 児童養護施設における施設内暴力への包括的対応―児相と連携して施設全体で取り組む「安全委員会」方式― 日本心理臨床学会26回大会発表抄録集P99 東京国際フォーラム.
田嶌誠一 2008a 児童福祉施設における施設内暴力の解決に向けて―個別対応を応援する「仕組みづくり」と「臨床の知恵の集積」の必要性 臨床心理学 第8巻 5号 694-705.
田嶌誠一 2008b 現実に介入しつつ心に関わる―「内面探求型アプローチ」「ネットワーク活用型アプローチ」「システム形成型アプローチ」 コミュニティ心理学研究 1-22 日本コミュニティ心理学会.
田嶌誠一 2009 『現実に介入しつつ心に関わる―多面的援助アプローチと臨床の知恵』
金剛出版
田嶌誠一 2010 児童福祉施設の子どもたちの体験と「日常型心の傷」 丸野俊一・小田部貴子編 現代のエスプリ511『日常型心の傷に悩む人々』 86-95 ぎょうせい.
田嶌誠一 2011 児童福祉施設における暴力問題の理解と対応―続・現実に介入しつつ心に関わる 金剛出版.
當眞千賀子 2016 護り護られて生きるー「アタッチメント」の活かし方 教育と医学 2016年11月号 62-71.